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2011年8月3日水曜日

動遊社設立趣意書

18歳になってしばらくの1970年5月。普通自動車運転免許を取得した。以来41年、ずっと自動車に関わるところに身を置いてきた。当初は、どこにでもいるような単なるクルマ好きで、それほど裕福な家庭ではなかったはずだが、父親はほとんど言いなりの形で一台の新車を買い与えてくれた。

日産のサニー1200クーペGX。たしか昭和45年の6月に追加されたばかりのスポーツクーペで、必ずしもファミリーユースに相応しいものではなかった。決め手は忘れてしまったが、この選択が今に繋がっている。ふとしたきっかけから、20歳の時にモータースポーツという世界があることを知り、挑戦することにした。

振り返れば無謀以外の何ものでもなかったが、無知で一点に集中できる若さがすべてに優った。この突破力こそが時代を動かす原動力なのだと、今確信を持って言える。すでに齢60目前、10代の知識や経験はないがほとばしるエネルギーで未知の世界に踏み出せるあの感覚は期待できないだろう。

しかし、長く経験を重ねたからこそ掴み取ったといえるvisionがある。理想は追ってこその理想であり、実現を夢見てこその目標だろう。クルマという19世紀末に生まれ、20世紀を通じて最大の利器のひとつとして数えられる乗り物の最大の魅力は、自由移動という誰もが求める機能を、五感を総動員して受け止めながら、楽しみ尽くせる。

人間の全身に関わる身体機能の拡大装置……少し厳めしい言い方をすればそういうことになるはずだが、人力の何倍ものスピードと疲れを知らない航続距離がもたらす時空移動は、所有欲から闘争本能までのあらゆる欲望をくすぐる不思議な感覚に満ちている。未だ興味が薄れない。多分死ぬまでそうなのだろう。まだまだ知らぬ事が多く、やってみたいことがあるようだ。

いっぽう、クルマは存在そのものがエネルギー消費に明け暮れるという意味で、21世紀の二つ目ののディケードに入った我々に重い課題を投げかけている。エネルギーの源となる埋蔵資源の多くは使えばなくなり2度同じ使い方ができなくなる。だけでなく、形を変えたエネルギーはどこかに失せたわけではなく、自然環境に多くのマイナス影響を及ぼしながら我々の暮らしを圧迫し始めている。

この魅力的だが極めて厄介なクルマという存在を、いかに味方につけてそのプラスの影響を未来に繋げて行けるか。それを考えるには、今を楽しみ、その中で答えを出して行く姿勢が欠かせない。

クルマを媒介にネットワークを形作り、日本全国はもちろん、世界中に提案できる普遍性を持った枠組みを作ってみよう。クラブという曖昧な形態を取ることで日常にうまく溶け込めたらいい。ルールは集う人が決めて行けばいい。大人が集う場としての"倶楽部"という形態を取りながら、森羅万象に関わるクルマの面白さを伝える文化的なスペースを作りたい。

『動遊倶楽部』というタイトルはすでに着想から四半世紀を経た歴史ものの範疇だが、これに氏名の中抜きである"木悦"のロゴを添えた名を以て、長年の懸案を実行に移そうと思う。敢えて宣言するほどのことでもないが、自らの意志の再確認と背水の陣であることを表明することで一歩前進させたい。動遊倶楽部を作るための組織として『動遊社』を立ち上げる。これもかねてからの構想だが、正式に表明するのはこれか初めてということになる。

成すべきことは、人、道、車というそれぞれが独立した"システム"が互いに重なり合うことで、クルマという本来の機能を果たし得る『三重のシステムとしてのクルマ』という大前提に立ち、まず第一に自然環境に根ざした道路のあり方を考える。システムとしての高速道路のあり方は、大きな問題として語って行く価値があると思っている。

変化に富んだ日本の国土、自然環境は、クルマを鍛えるに格好の場であり、その道とクルマに関わる人にとっても本来の楽しみを掘り下げるのに好ましいこれ以上のステージはない。

東京に象徴される巨大都市への一極集中を改め、個性豊かな各地の土地柄を活かす分散型の国のありようを追求することは、昨今の震災や自然災害への備えや原発問題の解消策を考える上で避けて通れない。

過去の延長に身を置こうとする大多数の既得権保持者が変わらないかぎり、現状が好転する可能性は少ない。それか明らかになった今、自動車からその方策を考えるという道筋は、単にクルマのスリルを味わうこと以上に面白いことなのかもしれない。

なかなか踏み出せなかったのは、自らの突破力に対する懐疑からであり、厳しさを増す我が身のありようと年齢のせいだ。そんな分かりきったことでいつまでも逡巡していてもつまらない。やるかやらないか。とにかく一歩を踏み出して、少しでも理想と思えるゴールに近づこう。

クルマ好きが集える場としての『動遊倶楽部』をひとつひとつ形にして行き、集う人が情報発信源となる。当然、クルマで言えばFRレイアウトが重要なキーワードになるが、それやこれやを含めて少しずつ膨らんで行けばいい。地球をクルマで走り回る。理想は案外シンプルなところに落ち着くのかもしれません。

2011年8月3日 動遊社 と 動遊倶楽部 の設立を期して起草しました。

伏木悦郎      

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